第229章 結託⑤
皆が寝静まった後も、定期的にお湯を沸かせては包帯や布、縫い針などを消毒しておく。それが終われば火から鍋を下ろして、煮沸したお湯を少し冷ましておく。
「ん……っ、重い、な……。」
お湯が入っていることでなかなかの重量であるその大鍋を両手でなんとか火から外そうと試みる。特に軸となる人差し指と中指に力の入らない私の腕は役立たずで、どうしても持ち上げられずに困っていると……思いがけない人が起き上がって、何も言わずに一緒に大鍋を火から外してくれた。
「―――ありがとう、アニ。」
「………別に。こっちに零されて火傷するのが嫌だっただけです。」
「でも助かった。」
「…………。」
アニは私に目を合わせることもなく、また焚火の側に横になった。
彼女とはあまり話したことがない。
どちらかと言うと、女型の巨人と対峙した時間のほうが長いんじゃないかとすら思うほどだ。目の前に、ペトラやオルオ、グンタやエルドさんを殺した人がいる。それにストヘス区では多くの民間人を死なせた。
でもこうして相対してみると、アニの背中は小さくて……頼りなくて。
そして彼女は『父親を殺されたくない』と言う。
ふと、問いかけてみたくなった。
「ねぇアニ。」
「………なんですか。」
「お父さんは、どんな人なの?」
「――――………。」
私の問に、アニは黙った。
「私の父はね、医者で……家族を省みなかったところもあるから……私は少し寂しい思いをしたこともあったけど、自分の責任を果たそうと一生懸命生きた人だった。」
「――――………。」