第221章 愛憐
始祖ユミルはこんなにも強大な力を持ちたかったのだろうか。少なくとも俺には、そうは見えなかった。
不運にもその力を手にしてしまった……自分の存在する意味をそこにしか見出せず、ただ王家の血を引く者の言いなりとして奴隷のようにずっと……気の遠くなるような時間を一人でここで、過ごしてきた。
自分がまるで化け物かのように思えて、誰かに必要とされることだけが自分の存在を赦されている気がして……そこに縋るしかない。
ユミルの長い長い苦しみに比べればほんの一瞬の些細なものだったけど……俺もその感情を、知っていた。
――――辛いよな。
こんなことを永久に続けたいわけじゃ、ないだろ?
どうすればいい。
お前を分かってやりたいと、神なんかじゃなくていい、奴隷じゃなくていい、お前はお前のままでいいと……伝えてやるには。
もうずっと昔のことに思える。
あの日のあの出来事と、ナナの言った言葉を思い出した。
『――――化け物なんかじゃない。あなたは特別な力を偶然持っただけの、ただの人間の男の子。大事な、私の家族。』
そう言ってナナは、躊躇もせず、怖がりもせず、俺自身化け物だと思っていた俺の手を、力強く握り返してくれた。
信じられる大事な存在の温もりは、心の氷をきっと溶かす。
座標へと歩みゆくユミルを、その小さく寂しそうな背中を、背後から強く抱き止める。
「終わりだ。俺がこの世を終わらせてやる。俺に力を貸せ。」
ユミルは初めて、足を止めた。
「お前は奴隷じゃない。神でもない。ただの人間の女の子だ。誰にも従わなくていい。お前が決めていい。」
「何と言った?!エレン?!この世を……終わらせるだと……?!やめろ!!何をする気だ?!」
俺がユミルの歩みを止めたことに動転したのか、ジークが駆けて来る気配がする。
だがもう遅い。
ユミルは……人の、俺の温かさを、こうして受け入れようとしている。