第217章 傷痍
「――――よく逃げてきたね、頑張った。ナナ。」
ふとハンジがナナにかけた言葉に、ナナが何か心か体にか、傷を負ったのだろうと察する。
髪を撫でて、抱きしめて、……ナナが話して楽になるなら、聞いてやりたい。なのに……やっぱり体は動かせない。僅かに握りしめた拳に、違和感を感じる。
――――あぁそうか、指ごと吹っ飛んだのか。
クソ……とんだ失態だ。
そう、悔しさを噛み殺した。
「リヴァイを運べるように、何か考えなきゃ。ナナはついててやって。」
「はい……。」
ハンジが側を離れた気配がした。
そして頬に温かいものが触れる。
――――ナナの手だ。
本当はこんな無様な姿は……惚れた女に見せたくはない。
――――が、死ぬよりマシだ。
俺は死ねない。
ナナを残しては、絶対に。
「――――リヴァイさん……ゆっくり休んで……そしたらまた、起きて、くれる……?」
震える声。その声だけで、ナナがどんな顔をしているのか手に取るようにわかる。
瞼の裏に……鮮やかに描ける。
整った顔をぐしゃぐしゃにして弱りきった顔で、俺を覗き込んでいるんだろう。
「もし……もう起きないなら………、私も、今度こそ、そっちに……いく……。」
胸の上にとん、と重量を感じる。
縋るように、鼓動を確かめるように俺の胸に顔を寄せている。
――――馬鹿野郎。死ぬかよ。
今はただ、眠くて……。
お前が側にいれば俺は心地よく深く眠れる。
次に目を覚ましたら、ちゃんと聞いてやる。
お前のその悲しい顔の理由を。
そして、ハンジの弱音もな。
だから今はもう少しだけ、お前の温もりに甘えながら眠らせてくれ。