第216章 片生
違う。
違う。
悪魔は……私の中にいて……私はそれに絶望して……抗おうとした。
最期の最期までうまくやれなかったけれど……私の瞼の裏には、あの日……クロルバ区の壁上に立った、自由の翼を背負った2人の姿が焼き付いている。
腕を組んで壁の外を眺めるリヴァイ兵士長と、その横で同じようにその先を見るナナさんの揺れる銀髪が綺麗で……。彼らにしか分からない感覚を共有しているような……そんな2人が、とてもかっこよくて……幼い私にはそれが、穢れなく美しいものに見えた。
――――でもその美しさも強さも決して穢れないものなんかじゃなく……、苦痛も、恐怖も、屈辱も、後悔も……あったからこそなのだろうと、今ならわかる。
――――私は乗り越え、られなかったけれど……。
あの日見たあの2人の美しさの理由を知れたから。
私は一つ、大人になれたのかもしれない。
「――――可哀想にな、アイビー。」
フロックさんが私を憐れむような目で一瞥して……背を向けた。私の目の前に踏み出された素足は、ジークさんのそれで……私を通り過ぎて、何事もなかったかのように皆はその先へ進んだ。
――――私は可哀想なんかじゃない。
私の死ぬ意味は、きっとある。
ナナさんが……リヴァイ兵長を必ず助けてくれるから。
「――――リヴァ……イ……兵―――――………」
どうか、どうか死なないで。
私のものになんてならなくていい、ただ……2人のあの強く美しい背中をもう一度、見たかった。
無数の冷たい雨粒を寄越してくる分厚い雲に手を伸ばしても何も掴めなどしないまま――――………
私の世界は、そこで幕を下ろした。