第216章 片生
「――――ナナさん、止まってください!」
「えっ。」
「こっちへ!」
アイビーに言われるまま、馬の手綱を引いてゆっくりと、騎乗したまま木々の立ち並ぶ陰に入った。雨足の強い降雨のせいで靄がかかったように見えているけれど、アイビーはその大きな瞳をしっかり開いてずっと先の一点を見つめていた。
ジークさんの拘留地までは、あともう半刻ほど下った先の巨大樹の森の中のはず。
「――――数名の兵士がいます。」
「……!!フロックさん達かもしれない!」
「ええ。」
私は考えた。
フロックさんがハンジさんを連れてジークさんの拘留地へ案内させている。――――私はその場所を知っている。彼らをなんとか足止めして、先回りすれば……一足先に、リヴァイ兵士長達に、場所を変えてもらえるかもしれない。
――――エレンとジークさんはお互いを引き合わせて、地鳴らしの発動が可能なのかどうかを……試す気でいるに違いない。それを見守ると言いながら寝首を掻いてエレンを食わせようとしている兵団側と……兵団に牙を剥いたフロックさん達イェーガー派……。
今ここで30人の精鋭を率いたリヴァイ兵士長とフロックさん達が出会えば……殺し合いが始まってしまう。
もしくは……ハンジさんを人質にとられて従わされる……だけで済むだろうか?容赦なく調査兵団のみんなに銃口を向けるんじゃないかと、嫌な想像ができてしまう。
まずはリヴァイ兵士長にワインのこと、そしてフロックさん達が迫っていることを伝えなければいけない。
それが――――最優先だ。