第215章 悪夢④
「――――あぁそれと。」
「はい?」
「――――肋骨あたり、イってんだろ。伝達が済んだら診てもらえよ、ちゃんと。」
「――――!!」
アーチは驚いた顔をした。
―――その顔は、てめぇの兄貴もよく俺に見せた顔だ。
そしてその後は――――……眉を下げて、笑うんだろ。
「……なんで、わかるんですか。」
ほら、その顔だ。
「―――見てりゃわかる。」
「―――……診てもらいます。これからも……生きてかなきゃ、いけないんですもんね……。」
「――――そうだ。」
アーチはまた前を向いてから、もう一度俺の方を振り返った。
「行ってきます、兵長。」
「あぁ。頼んだ。」
その目はまた僅かに潤んでいたように見えた。
遠くの方から雨雲が近付いている。
きっとお前が駆けるその道中は雨が降る。
――――お前の涙は誰にも気付かれない。
俺はアーチの背中を見送って、荷馬車の馬をゆっくりと走らせた。