第215章 悪夢④
私は――――………きっと、この身を差し出す。
『食べて。』
そう言って、彼に歩み寄るだろう。
彼がどんな姿をしていても……、王都に置いて来た娘のところに帰れなくなって……それがいかに母として無責任なことだとわかっていても………。
――――溶け合ってしまいたい。
言葉通りのそれじゃなくても、リヴァイさんなら。
――――あなたを失うくらいなら。
その腹に納めて……二度と離れなくて済むように。
「――――ワインを渡したのは、私だから……。」
「……………。」
答えられない私を察してか、アイビーは手綱をギュッと強く握ったまま、前を見据えて――――言った。
「もしリヴァイ兵長が……他の皆さんが、巨人化していたら――――………私が責任を持って……っ……、その命を、終わらせてあげないと……解放してあげないと、いけないから……っ!」
その瞬間、私の鼻の頭にぽつ、と小さな雨粒が落ちた。
ぽつ、ぽつ、とその滴は降り注いでくる。
アイビーはそれを口実にしたように、マントのフードを眼深く被った。フードの下から、噛み千切りそうなほど噛みしめた口元が見える。――――その頬に伝うのは雨だと言い聞かせて、引き裂かれそうな後悔と自責の渦の中で……彼女は責任をとろうとしている。
――――あぁ、知らない間にあの少女は……こんなにも立派な兵士になっていたなんて。
『逃げて』なんて失礼なことは、それ以上……言えなかった。
やがて私たちの心模様でも反映させたかのように、雨足はどんどん強くなって……視界が悪くなるほど、雨が降りしきっていた。
ただ、それは幸運だった。
フードを2人して深く被れば……遠目からには、誰だかなんてわからないだろう。
それから先は言葉もないまま、アイビーと私はひたすら馬を走らせた。