第215章 悪夢④
”――――ナナ、ごめんね。先に――――……連れてく。“
「――――――??」
ずっと走らせ続けていた馬を休ませるため、川べりで水を飲ませていた時だった。
――――何かが、聞こえた気がした。
きょろきょろと辺りを見回してみても……そこには誰の姿もない。まるで平和そのものに見える緩やかな丘陵と……その合間を流れる小川のせせらぎだけが聞こえている。
「ナナさん?どうか……しましたか?」
私が不可解な動きをしたからだろう。
アイビーが少し心配そうに、警戒する姿勢で同じように辺りを見回した。
「……ううん。なんでもない。」
――――早く、早く行かなくちゃ。
ワインを飲んではいけないって……早く、伝えないといけない。リヴァイ兵士長、サッシュさん……アーチさん、バリスさん……どうか、どうか無事でいて……。
そう願いながら、酷使していることは分かっていながらもまた長距離を走らせる、二頭の愛らしい目をした馬たちを優しく撫でる。
「……もう随分走った。……辛いかもしれない、ごめんね。でも……大事な人達が危ないの。お願い、もう少しだけ頑張って。」
ずっと一緒にいた愛馬でなくても、想いは伝わるのか……私を乗せてくれていた鹿毛の優しい目をした子は、すり、と私に顔を寄せてくれた。
その時、この子の美しい鬣をなびかせた風が――――、湿った……雨の匂いがした。
「――――雨になるね。」
「………本当だ………雨の……匂いがする。」
私たちは暗雲の立ち込める遠くの空を見つめた。
――――まるでこの先の未来を暗示しているような、そんな暗い空を。
「――――急ごう。この川沿いに下っていく。」
そんな嫌な想像はしない。
私とアイビーはまた馬にまたがって、ジークさんの拘留地を目指した。