第214章 悪夢③
木の上から降って来た元仲間の巨人たちは……ぐるん、と一斉に俺をその目に捕らえたかと思うと、我先にと食らいつこうと手を伸ばし、突っ込んでくる。
「――――クッ……ソ………!!」
ジークの脊髄液がワインに……?
いつから仕込まれていやがった……?
体が硬直するって予兆はなかった……嘘だったから?
なによりこのワインはアイビーが調達してきたんじゃ……なかったのか?知らなかった?それとも――――……。
そんな思考をしながら相手をできるような、普通の巨人じゃなかった。動きが俊敏すぎる。
これもジークの仕業か?
立体機動で巨大樹を使って、奴らに不利なはずの頭上高くに駆け上っても、難なく巨大樹の幹を這うようにして追ってきやがる。運動能力のリミッターでも外しているかのような、動きだ。
サッシュは――――……なぜが、巨人化したままその場所で微動だにしない。
目の焦点が合っていないような、なにか――――不気味な様子で佇んでいる。
その時、少し離れた所から俺を呼ぶ声がした。
「――――兵長ッ……!!!」
――――この声は……。
「――――アーチ!!!」
どうやらアーチはワインを飲んでいなかったのか……人の姿のまま、巨人化した仲間が次々とその身体を食おうと伸ばしてくる数多の手をかいくぐっていた。
アーチの方へと移動しようと立体機動のアンカーを刺し直したその時、目の前に現れて俺を食おうと手を伸ばした巨人の指先を、俺は反射的に切り刻んだ。
その先の巨人の顔を見て――――……動揺した。
……あいつの面影が、見える。
「………ッ――――バリス………!」
その首筋に向かって刃を振るう手が鈍った。
――――こんなことは、今まで……なかったのに。
俺はなぜ、目の前の巨人を殺すことを躊躇った?
元仲間だとしても。
もう人間に戻す術はない。
殺られる前に殺るしかない。
そうやって無慈悲に、非情に切り刻んだ命は数え切れない。
だから今まで生き延びて来られた。
――――だが、思っちまうんだ。
その項を見た時に……まだそこに、いるんじゃねぇかと。