第213章 悪夢②
「――――あんたばっかりに、心が削がれるようなことはさせない。キツイ、じゃないすか……。殺したり、斬りおとしたり……って……精神的に。」
「――――………。」
何を今さら、と……言いかけてやめた。
あぁこいつは、人を殺すことも……傷付けることも……それをすることで自らの心が削がれると言うんだな。
――――ナナと、同じだ。
そんなことで俺を守った気にでもなるつもりかと言いたいところだが………、サッシュのその行動は、ナナが血に塗れた俺をその腕に抱きしめて癒そうとするそれに似ている気がして……ほんの少し、悪くねぇと、思ったんだ。
「ああ。任せよう。」
――――と、その瞬間、足音がした。
振り返ると読書をしていたはずのジークが森の奥に駆け出して―――――咆哮を、あげた。
「うおおおおぉぉぉおぉ!!!」
「―――――おい……っ……!」
体がビリッと痺れたような気がしたのと同時に、ゾワッ、とこの上なく嫌な感覚が全身を駆け巡る。
辺りを見回すと、木の上に待機していた兵士があちこちで……内側から食い破られるように湧き出る激しい光に包まれた。
「――――兵、ちょ……!」
まさか、とサッシュの声のする方に目をやると、サッシュは苦しそうに自らの胸ポケットを爪を食い込ませるほど強く掴んだ。
体の内側から何かが強烈に発光して―――――――……
サッシュが俺に向けたその目は……一生、忘れることなど出来ない。
お前は何を言いたかった?俺に――――……。
光が消えて……そこにいたサッシュは……
その純粋すぎる馬鹿面の面影を残したまま――――……
なんの意志も……これまでの俺達との記憶も持たない、人を喰らうために徘徊する憐れな巨人の姿に、変わっていた。