第213章 悪夢②
揺さぶられる度に漏れ出る声も吐息さえも飲み込み続けて……、もう、誰が私に覆いかぶさっているのかも、よくわからない。出口の見えないこの悪夢はいつ終わるのかと……耐えるしかなかった。
そんな中でも私の思考はずっとリヴァイさんやサッシュさんのところにあって……、どうかワインを口にしないでいて欲しいと祈っていた。
……そして、もし口にしてしまっていたのなら……私は……迷わずジークさんを殺す。もしくは……信頼できる誰かにその獣の巨人を引き継いでもらう。……いや、私が引き継いでもいい。とにかくジークさんから力を奪わないと。
――――大事な人を……人を食うために彷徨う巨人にさせるくらいなら……人を救うためのこの手で、彼の命を奪ってみせる。そんなことを思えるくらいに……私は戦争という異常な環境に順応し始めていたのかもしれない。
数時間後、満足したのか兵士二人は衣服に袖を通し、体中に白濁を浴びせたままの私を置き去りにして、牢屋にまた……鍵をかけた。
私は起き上がることもできず、埃まみれのベッドに横たわったまま……彼らが去って初めて、涙を流した。
この涙はエルヴィンが与えてくれた大きな愛情と想い出を踏みにじられたことへの悲しみの涙か……それとも人を殺す算段をすることができるようになってしまった自分への絶望か……どちらだろうか。
そこに、石段を下りる足音が聞こえた。
とん、とん、とゆっくりと一定のリズムで聞こえていた足音は、私の牢屋の手前のところで止まった。これから目にする光景について、最悪の想像をしているのだろう。
きっとこの足音は……アイビーだ。
案の定ちら、とアイビーが顔を覗かせた。
その瞬間、両手に持っていたのであろう食事の一切がガチャン!!と音を立てて床に転がって……食器も、割れた。
「――――ナナ、さ……っ……!」
ガタガタと震えて、今にも精神を壊してしまいそうなほど目を開いて、早すぎる呼吸と鼓動を抑えたくて胸を押さえているように見える。