第211章 歯車④
――――なんで、そんな風に思えるの。
憎しみの連鎖を断ち切るなんて、容易いことじゃない。
―――だからこの世界は残酷に奪い、奪われる。
殺さなければ殺されて……愛する人を失って、また愛する人を誰かから奪う。
どうやってもそこから抜け出せるはずがないって………私は、試みもしないで諦めていた。
サシャのお父様の言葉は、そこにいた皆の心に――――……大事な何かを灯してくれた気がした。
「ニコロさん、ベンを放しなさい。」
サシャのお母様の声は……サシャにそっくりで……、私はまた涙を堪えて、俯いた。
「――――ハンジさん……。」
ブラウス夫妻の言葉はニコロさんにも届いたのか、ニコロさんはがく、と膝をついて……まるで贖罪のように、それを口にした。
「そのガキの口をゆすいでやってくれ。あのワインが入っちまった……。」
「――――え?」
ハンジさんは驚愕の表情で、私と目があった。
――――本当だった。
やっぱりここのワインには……何かが……。
「もう、手遅れだと思うけど……。」
「―――――ッ……ニコロ、あのワインには何が……入ってるの……?」
「――――多分……ジークの脊髄液だ。」
――――全身から血が抜け、冷たくなっていくような感覚を覚えた。
蓄積していくような部類の毒物かと仮定していた。でも実際は……そんなものよりもよっぽど恐ろしくで残酷だった。
―――――静まり返るその大きな空間で、自分の心臓だけがどくん、どくん、とうるさいほどに大きな音を立てていた。