第211章 歯車④
――――戦鎚の巨人の力を使って……早いところこの牢から出るか。そう、思った矢先。
「――――イェーガーさん。」
「…………?」
看守の兵士が俺に小声で話しかけて来た。
そう言えば見覚えがある顔だ。
――――あぁそうだ、イェレナと密会する時にも……確かこの男が仲介していた。
あの時は見慣れない顔だと思ったが……そうか、すっかりイェレナやフロックと噛んでいるってわけか。
「――――あなたならここから逃げることなど造作もないはず。ですがその決行は3日後の深夜。それに合わせて……あなたの手となり足となる同志の者達もここから離反します。」
「――――それは誰の手引きだ?」
「――――フロックさんです。」
「……………。」
――――フロック。
お前は本当に俺を信じてついてくるということなんだな、と理解した。
あの日の夜……フロックと2人、蝋燭の火が揺れるボロ小屋で交わしたこの密約を、フロックは着々と進めている。
「いいだろう、――――見せてやるよフロック、新しい世界を。」
そして約束の日の深夜。
俺は戦鎚の能力を使って地下の壁に穴を穿ち、そこから脱した。もちろん追手が来られないように硬質化で穴を塞いで。
指定された待ち合わせ場所に辿り着いたのは暗闇に光を射す夜明けの太陽が昇る、白い光が眩しい朝だった。