第209章 歯車②
兵長の言葉は相変わらず厳しいけど、それはつまり “俺が死ぬことを喜ばない” と言っていて……自分で聞いといてなんだけど、ちょっと恥ずかしいな、これは。と思いながら鼻の頭をポリポリと掻く。
するととなりでまた、兵長は言葉を続けた。
実はよく喋るんだよな、この人。
「自分の命を省みねぇなら、爆弾でも背負って特攻すりゃ済む話だ。――――そんな簡単なことを俺が評価すると思うか。てめぇは敵を倒すだけで満足する奴じゃねぇだろう。仲間を守れる野郎だ。やれ。甘えんじゃねぇ。」
「―――――!!」
びっくりした。
それはつまり……俺を認めているって、言ってるんだろう。
生きて、仲間を守れと。
――――あんたは兵士を鼓舞するときに “死ぬな” とよく言うけど……誰かに誰かを “守れ” って言ってるところはあまり見たことがない。それはきっと、それに耐えうる強さを持った人間にのみ、かける言葉なんだろうと思った。
――――ずっと追って来たその背中の横に、並んだのか。
いや、まだまだだってわかってる。
けど……、それでも、せめて俺は、全てを守ろうとするあんたが唯一 “守らなくていい男、一緒に仲間を守れる男 ”であれたらいい。
「………ちっ……喋ったら、喉が渇くな。」
「……っはい、見張り代わるんで紅茶飲んで来てください。」
「ああ。」
兵長は俺の顔を見ないまま、マントを翻して下に下りて言った。
「――――照れちゃって、可愛いとこあんな、あの人。」
こんなつぶやきを聞かれたらまた殺されそうだ。
………今、ナナ達はどうしているだろう。
壁内の方へ遠く目をやってみる。
「――――ナナ、お前が連れ戻してくれたから、俺はこの人の側でお前が愛するこの人を守ってやる。」
――――兵長ってさ、実は誰からも守られたことないんだぜ、多分。だから一人くらい、この人を守る奴が居たっていいよな。
俺は大きく息を吸って、姿勢を正した。
これから来る未来がどんなものであっても、後悔しないように最後まで、戦うんだ。
尊敬するあの小男―――――……リヴァイ兵長の側で。