第208章 歯車
リヴァイ兵士長たち精鋭班がつくジークさんの拘留のため巨大樹の森へと発った翌日の夕暮れ時。
私は花とお菓子を持って、そこを訪れた。
多くの関係者が……蹲って冥福を祈り、むせび泣き……崩れ落ちて涙を流す。
今回の作戦で亡くなった兵士の墓標は……また、増えた。
目的の場所に目をやると、既にそこにいたのは……膝を抱えて悲しみに耐える、ミカサの姿だった。命の終焉のように沈みゆく太陽から目を背けるように、膝を抱えて……サシャの墓石に背を預けている。
「――――ミカサ。」
「………ナナ………。」
「サシャと……話してたの?」
私が問うと、ミカサは目を細めて唇をへの字に結んだ。決して表情が豊かではないミカサが……なんて……悲しい顔をしているんだろう。
「……ナナも、サシャに会いにきたの……?」
「――――うん……。最後にね、『肉』って……言ってたから……。ミートパイを持って来た。また、お腹空かせてるかも、しれないじゃない?」
「――――喜ぶ、きっと。」
「………だといいな。」
サシャの墓前にしゃがみ込み、花束とミートパイを置く。
あなたが今ここにいたら……きっと目を輝かして……私が渡す前に紙袋ごと奪い取っちゃうかもしれないな……なんて想像すると、可笑しいはずなのに……涙が溢れる。
「――――助けられなくて……ごめんね……。」
私に背を向けていたのに、小さく呟いた私の声が聞こえたのか、ミカサはがばっと私の方を振り返った。そのミカサと一瞬目が合ったけれど、すぐにミカサの目線がずれた。同じ方向を見ると、何か……揉めているような声が聞こえて、人影が見える。
兵服の兵士が、黒いスーツを着た男性に拳を振り上げている。
――――止めに、行かなくちゃと思ってその場を立ち上がると、そこにジャンやコニーが割って入ってくれたのが見えた。それに合流するようにミカサが駆け寄り、蹲る黒いスーツの若い男性に声をかける。
知り合いのようだ。
しばらくして、その男性はこちらに歩いて来た。栗色のクセのある髪と……髪色と似た、色素の薄いブラウンの瞳が配されたその目を大きく開いて、一言掠れた声で言った。