第205章 開戦⑤
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私の前を行くリヴァイ兵士長の背の自由の翼を見つめる。
――――いつまで経っても到底横になんて並べなくて。
私はずっと憧れ続けるんだ。
この背の翼に。
さっきまでの動悸や混沌とした心の内が嘘のように、頭も心も澄んでいる。
――――乱れない。
乱れたとしても、決して目を逸らさず、弱い心は虚勢で覆って笑うんだ。
大丈夫。
ねぇエルヴィン。
いつか私もそっちに行ったら……たくさん話を聞いて欲しい。初めて憎いと思ったこの感情をどうしていいかわからないから。
そう心の中で呟きながら、胸の片翼のネックレスに手を当てた。船室に戻るとハンジさんと目が合ったけれど、すぐに察して、ホッとした笑みを見せてくれた。
「申し訳ありませんでした。戻りました。」
私が頭を下げると、近くにいたサッシュさんがぽんぽん、といつものように頭を撫でてくれる。
「――――さすが兵長。愛しい妻の扱いはお手の物だ。」
イェレナさんがふふ、と嫌味っぽく笑うけれど、そんなことは気にしない。
「えっ本当に妻なの?リヴァイの?」
イェレナさんの言葉に被せるようにジークさんがまた飄々と言葉をかける。
「違います。」
「――――そうだよな?将来を誓った人がいたはずだもんなぁ、ナナちゃんには。」
――――やっぱり知ってて、言っているんだ。