第203章 開戦③
「――――厳しいな。揺れる……。」
オニャンコポンさんが小さく、呟いた。
それでなくとも高度を下げていることもバランスを取りにくい一つの要因で、しかもあちこちから爆風も吹きすさんでいる。そしてなにより、仲間たちが乗り込めるような低速で飛行するというのが……とても難しい。
「―――立体機動装置を使える私の私見ですが……、あと僅かに速度を上げても乗り込める。大丈夫だと思います。ハンジ団長、いかがですか。」
「――――うん、同意見だ。無理に低速維持をして墜落こそが最も忌避すべき事態だからね。高度はそのままで速度を上げられるかい?オニャンコポン。」
「それなら……いけます!!ナナさん、エンジン少し回します……!加速するその瞬間、バランスが一瞬崩れるかもしれない。気を付けてください!」
「はい!」
オニャンコポンさんの言うとおり、加速するその一瞬、機首が浮いた気がしたけれど……僅かに微調整する程度で、問題なく僅かに速度を上げて同じ高度て飛行することができそうだ。
「――――みんな、ちゃんと乗り込んできて……!」
あと数分後に……この飛行船に乗っている者だけが、パラディ島へ帰着できる。
――――乗っていない者は敵国の捕虜か――――……
最悪の場合殺されるかもしれない。
もう二度と会えない仲間が……いると思うと、何度経験しても……この瞬間には慣れることはない。
――――エレン、ミカサ、アルミン……、サッシュさん……、ジャン、コニー、サシャ……、バリスさん、アイビー……フロック……さん……、どうか、無事で帰って来ますように。
「…………神様……!」
私は震える声で無意識に神に祈る言葉を口にしていた。
こうして、パラディ島と私たちの運命を乗せた飛行船は――――……
戦争の火蓋が切られたその中心部に差し掛かった。