第203章 開戦③
「おいナナ、付き合う必要はねぇ。じき他の奴らも戻ってくる。操縦か手当に専念しろ。乱れるな。」
「っ……はい……。」
ナナは一瞬ぐ、と俯いて、律儀にジークにまで軽く頭を下げて、ハンジのいる操縦室の方へ戻った。
そんなナナを目で追って見送ってから、ジークがまた俺を煽るように言いやがる。
「リヴァイは面食いなんだなぁ!えらい別嬪さんじゃないの!マーレでも見ないよなかなか、あんな美人さん。」
「――――黙れ。」
「怯んじゃって、可愛いねぇナナちゃん。一度見たら忘れないなぁ、あのお人形みたいなお顔立ち。壁内で交戦した時もいなかったよな?」
減らず口をいつまでもへらへらと。
俺は手足のない胴体だけのジークを思い切り、蹴り倒した。
「――――黙れと言ってる。」
「………はは……暴力も嫌われるぞ?ナナちゃんに。」
こいつのこの口から、その名が呼ばれることすら反吐が出る。転がったジークの肩を足で踏みつけて、蒸気を上げながら再生する腕をぐり、と踏みにじった。
「ナナを汚ねぇその口で呼ぶんじゃねぇよ………!」
「――――怖い怖い。よっぽど大事なんだな?」
「――――ナナに何かしやがったら、誰であろうと細切れに刻んで豚のエサにしてやると、思うくらいにはな。」
「はは……おっかないねぇ。」
何を考えているのかわからねぇその表情は、ぞくりとする。
こいつは――――……エルヴィンとはまた違った怖さを持ってる。底が読めねぇのは同じだ。使えるものは何でも使おうとするのも似てる。
だが……何かが欠如してる、そんな気味悪さがある。
――――ナナと触れさせたくない。
ナナが……怖がる。