第203章 開戦③
――――さすがだ、兵長。
顎の巨人がエレンのうなじに食いついた、その顎関節を断った。修復するまでは、エレンは食われずに済む。
俺が一瞬躊躇ったのは――――あの顎の巨人………。
いつか見たジャック……いや、ユミルの巨人にそっくりだ。継いだのか……ユミルの巨人の力を……。
いつかヒストリアにユミルから最期の手紙が来たとは聞いていたが……―――――食われたんだな。そして引き継がれた。まるで……兵器じゃねぇか。
エレンがジークの策にこうやって乗ったことをみんなも俺も、納得できないままここまで来た。
――――だが、こうやって……兵器を、脅威の力を継ぐために短い期間で人が人を食い合う……、王家に至っては親を子が、兄弟同士が食い合って繋ぐことになる。――――エレンがそれを、どうやってもヒストリアにさせたくなかったということだけは……激しく同意できた。
「――――くそ、なんだってんだよ……この、世界は……。」
やるせない思いに、思わず拳に力が入る。
――――その時、遠くから約束通り獣の巨人……ジークが現れた。瓦礫を手にとり、手の中で粉砕して……無数の弾丸に変えて振りかぶって投げる。
「―――――応戦するふりにしちゃあ、やりすぎ……じゃねぇか……?!」
無数の石つぶてが轟音と共に飛来するその光景は、あの日を思い出す。
――――多くの仲間が、散ったあの日。
今もまた……多くの兵士が、”応戦のふり” に巻き込まれて腹を、頭を石つぶてに吹き飛ばされて地に堕ちていく。
―――――ナナがここにいなくて良かった。
エルヴィン団長が見た凄惨な光景まで、その目で見なくていい。
「――――今度は……っ、お前の愛する人を……ちゃんと、返してやるからな……、ナナ!!」
現状を正しく把握する。周囲をぐるっと見回すと……厄介なのは獣を背後から守っているあの車力の巨人。その背に機関銃を背負っている。あいつを無力化しねぇと、飛行船を撃ち抜かれたら終わりだ。