第201章 開戦
俺はその時、タイバー家の当主が演説をしているステージの真後ろの建物の地下にいた。そこである人物を待っていた。とんとんとん、と階段を降りて来る足音が二人分。
「来ましたよ!」
扉を開けて入って来たのは、俺が戦争で負傷した兵士の療養と見せかけて潜伏していた収容区で仲良くなった少年、ファルコだ。色素の薄いブラウンの短髪に、意志の強そうなグリーンがかった瞳。10歳くらいだろうか。真っすぐで純真で、こんな俺のことを簡単に信じて……仲間への作戦伝達の手紙をそれはそれはかいがいしく届けてくれた。
そして……運よくファルコは次の巨人の継承者となるべく訓練を受けている戦士候補生だったこともあり……奴と、面識があったんだ。
「――――ファルコ。ありがとう。」
ファルコのあとに入って来て、まるで現実を受け入れられないとでも言うような顔をしているのは……俺の故郷を蹂躙した張本人。
「……よう。4年ぶりだな、ライナー。」
「……エレン。」
「よかったな。故郷に帰れて。」
ライナーはまるで状況が飲み込めていない表情のまま硬直した。その様子にファルコが動揺する。
「………え~と……あれ?お2人は古い友人じゃ……?ですよね?クルーガーさん?」
「あぁ……。ありがとうファルコ。引き合わせてくれて。――――お互い積もる話が多くてな。何から話せばいいかわからないんだ。」
「――――ありえない……。」
ライナーの発した言葉の続きは……『なぜここにいる?』と言ったところか。
「座れよライナー。ここは良い席だ。ステージの喧騒がよく聞こえる。それにここの上の建物は普通の住居だ。ステージの裏側だが……多くの住民が幕が上がるのを楽しみにして窓から顔を覗かせている。ここのすぐ上でな。」
俺は天井を指さしながら、掌から滴る血をライナーに見せつけた。
――――傷は作ってある。いつでも巨人化できる。
――――お前の故郷を、大事な人たちを……俺は一瞬で捻りつぶせる。