第191章 回想②
望んだのは、目が覚めた時にグレーがかった瞳がその目を細めて、黒髪の隙間から私を見下ろすこと。
どんなに心地の良い夢の途中でもいい、叩き起こされてもいい。目を開けた時に、あなたがいてくれたら……私は心の底から、安心できる。
朝日に誘われて目を開いたそこに、望んだ彼の姿はない。
――――でも、温かい。
私の腰から伸ばされた腕が、ぎゅ、と私の体を抱いていて……そう言えば背中から響く強く早い鼓動が嬉しくて振り向くと、リヴァイさんの姿がそこにあって……伸ばされた腕に目線を辿らせて、リヴァイさんの手を両手で握って確かめてみる。
――――あぁそういえば、エルヴィンの手は大きかったな。
大きくて分厚い掌と、太い関節……、それに綺麗に切りそろえられた爪。
こうして見ると、リヴァイさんの手はエルヴィンよりも随分小さい。
目の当たりにするあの力からは想像できないような、男性にしては華奢な手。――――とても綺麗……。けれど……掌をまじまじと見つめてみると、トリガーを引く度に……巨人の項を削ぐ度に、仲間を守る度に擦りきれたこれまでを想像するのが容易いほど、硬化したような皮膚。
それがとても愛おしくて大好きで、またその掌に頬を寄せる。
「――――帰ってきて、くれた……。」
ぼそりと呟くと、リヴァイさんが反応した。
むくりと身体を起こして、朝日に向かってうっとおしそうに目を細める。離れて行ってしまう手が切なくて、追うように私も体を起こす。
「おはようございます……。」
「――――ああ……。」
「あっ、食事……は……。」
「いい。兵舎で食う。風呂に入って俺はすぐ出る。」
「――――はい……。」
目も合わないまま、リヴァイさんはベッドから立って、行ってしまった。