第190章 回想
「悪い!体に障るよな!!大事にしろよ。重い物持つなよ!!資料とかもダメだ!スプーンより重い物を持つな、俺が許さん!それになんだ……、体冷やすなって言うからよ……!常に厚着しろよ?あとは飯もいっぱい食ってだな……!」
サッシュさんは私をパッと解放すると、少しの照れを含んだ眩しい笑顔で自らの頭をガシガシと掻きながら、次々に私を思いやってのおせっかいを口にした。
――――私は思わず、笑ってしまった。
「――――ふふっ……。」
「あん?なんだよ!心配してんだぞ!」
「――――ありがとうございます、サッシュさん……。」
私の言った『ありがとう』を聞き届けて、サッシュさんはとても柔らかく、優しく微笑んだ。
「――――ごめんなさい、が減って、ありがとう、が増えたよな。お前。」
「え……?」
「いい傾向だ。なんでもかんでも自分を追いつめてもいい事なんてねえからな!みんなお前が大事で心配してる。手も焼きたくて焼いてんだ。だから……ありがとうを言えるお前は、なかなかいい。成長した。」
「…………サッシュさんと、リンファの……おせっかいの、おかげです。」
サッシュさんは照れたように鼻先を指で軽く弾いて、小さく『そっか』と、呟いた。そしてすぐにまた私を真っすぐに見つめて、言った。
「一つだけ約束してくれよナナ。」
「はい。」
「――――生まれたら、リンファに……見せてやってくれ。カモミールの丘で眠る、あいつに……。」
私がカモミールのハーブティーを淹れるようになってから、リンファはカモミールを好むようになった。リンファが好きになってくれたカモミールが咲き誇る丘に、リンファの遺髪の一部を……サッシュさんは埋めた。
時折休みの日に、そこに出かけていることも、知ってる。
「――――もちろんです。私の親友であり戦友に……ちゃんと、報告します……!」
「――――おう。」
――――どちらの子かはわからないと……言わなかった私は、最低なのかもしれない。
泣いて喜んでくれるその顔を見ていると何も言えなくて、曖昧に笑んで……私は胸の奥に小さく突き刺さった棘を、見ないふりをした。