第190章 回想
天使のような我が子を見て不思議に思う。
――――こんなに無条件に可愛いと、愛しいと思える存在がこの世に存在するなんて、と。
――――けれど妊娠が分かった時、私は素直に喜べなかった酷い親だ。
『――――お前、もしかして妊娠しているんじゃないか?』
リヴァイさんに来てもらわず、ハルに迎えに来てもらった定期診察。長雨の束の間の晴れ間で王都に出向いた、蒸し暑い季節に……そう、告げられた。
確かに色々と説明がつく。
胎内で子供を育んでいる間は、慢性的に血液が不足する。当たり前だ、胎児を育むため、血や栄養を分け与えているのだから。その為には体が血液をより多く作ろうとする。ビタミンAの薬効果がなくなっている、というわけではなく……よくよく調べてみると、効果は同じように緩やかに、進行を抑えてはいる。ただし胎児の成長が著しくなるにつれ必要な血液を体が作る量が増え、薬では賄い切れない量の壊れた血液も多く作られてしまっているようだ。
そんな病気の進行や薬がどうの、などは全く耳に入っておらず、後でもらった検査資料を見て理解した。
それを聞かされた瞬間はとにかく頭が真っ白で……一番に思ったのは、『――――どっちの……?』という、悪女、売女、ビッチ……などと言われた女に相応しいものだった。
エルヴィンの子の可能性も、リヴァイさんの子の可能性もある。堂々と『あなたの子だ』と言えない私はなんて醜くて汚いのかと、呆然としたと同時に……リヴァイさんに、嫌われるんじゃないかと……またそんな自分勝手な考えが浮かんで、自己嫌悪に輪をかけた。