第186章 海
「――――そんなに怯えなくていい。何もしねぇ。」
――――本当はめちゃくちゃに、抱きたい。
1年以上会えなかった、触れられなかったそれをぶつけて、泣くまで犯して……ぐちゃぐちゃな顔で、『幸せだ』と……その表情と相反したことを言わせて……また、俺のものだと理解させるように抱き尽くしたい。
そんなねじれた欲をなんとか包み隠して、出来るだけそっと、優しくナナの髪に触れる。以前なら指を通すと、指に絡んで来ていたその髪も……サラリと、すぐに指の間をすり抜けて……どこにもやれない手が彷徨った。
その俺の手をナナはそっと両手で大切そうに包み込んで、以前と変わらぬ仕草で……自らの頬をすり、と猫のようにすり寄せる。
そして俺を大きな目に映しながら、色んな感情が入り混じる複雑な表情で言葉を零した。
「――――はい……、ありがとう……リヴァイさん……。」
「――――ただ体温は貸せよ。夜は少し……冷える時期だ。」
「……喜んで。」
ナナの手を引いて寝床に誘うと……従順に素直に……俺の胸に収まった。
「寝ろ。体力を回復させろよ、ちゃんと。」
「はい……。」
俺の胸に顔を埋める体勢だったナナが、その言葉を告げる為に少し顔を上げた。
「―――I love you……」
小さく呟かれたそれは、異国の言葉だ。
「――――あ?なんて言った?」
「――――………おやすみなさい、って。」
「あぁ、おやすみ。」
その吐息が首筋にかかって……ぞくっとする。
久しぶりに会った愛した女が腕の中にいて、2人きりで……こんな状況でムラムラするなという方が無理だ。
――――が、お前のせいでこんなことにも慣れてる。
チラっと目線を下げると、さっきの怯えた表情が嘘のように、安らかな笑みをうすく浮かべながら俺の腕の中で安心しきって目を閉じるナナがいる。
この寝顔だけは……ずっと変わらない。
――――なにものにも代えられない、俺の生きる意味がここにいる。
それだけで俺は戦える。
お前を……お前が愛するものを、守るためなら。