第179章 巣箱 ※
「――――喜びますよ、そりゃ。……あんたが幸せそうなら、俺は嬉しいんすよ。」
「――――………。」
「俺はナナだけじゃなく、あんたも大事だから。2人が幸せそうにいてくれるなら、それが一番っす。」
「――――そうか。」
「――――はい。」
「なんだこの空気。」
「なんでしょうね、めっちゃ恥ずかしいっすね!」
サッシュが慌てて紅茶のカップをぐい、と傾けた。
「あっつ!!!!」
「馬鹿だろ。」
「――――口が悪いんだよなぁ……。」
サッシュが淹れた紅茶はカモミールで、俺はその香りに覚えがあった。
「――――そういやこのカモミールはお前の趣味か?悪くねぇ趣味だ。」
「これはリンファの――――……好きだった紅茶です。ナナが、リンファに淹れてくれたのが始まりで好きになったとか……言ってました。」
「あぁ……そうか。」
こうやって何かが人づてに伝わっていくことが、不思議だと……だが悪くねぇと思う。カモミールに口をつけてどこか遠くに目線を投げたサッシュはおそらく、リンファのことを思い出しているんだろう。
――――ナナがもし死んだら……俺は何にその面影を探すのか。
あらゆる場所に、景色に……物に……紅茶に……あいつが好きだった焼き菓子に……馬鹿らしいほど、ナナを探すに違いない。
はっきりとその笑顔を、熱を、声を、抱きしめた感触を、いつまでも覚えておきたい一心で。