第179章 巣箱 ※
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日が落ちる頃に執務が終わる、なんてことはこれまで意としてそうしない限り、ほとんどなかったが。たった13人の兵士の兵士長は、随分とやることも少なくなった。
まぁ……それも今だけだ。
新規入隊を募り始めれば、忙しくなる……それに、規模によっちゃあまたウォール・ローゼ内の調査兵団本部に戻ることになるだろう。ここトロスト区内の兵舎とは違って本部に戻れば……ナナと2人で部屋を借りる事などできない。なんたって周りにそんな部屋を貸してるところもねぇしな。
――――それに……病状の悪化でナナがいつ王都に戻るかも、わからない。
――――俺達の帰る場所が欲しい、ナナに言ったそれは嘘じゃない。だが……ナナと共にいられる今この時間が……瞬きするほど一瞬のような気がしてしまって――――……柄にもなく、焦った。
四六時中側に置きたい、その目に俺を映して、笑ってるナナを見たい。
――――当たり前のように俺の腕に帰るナナを嫌程抱いて……恍惚としながら意識を手放すように眠りにつくナナを抱き締めて眠って――――共に目覚めるという、そんな平和ボケしたような毎日を………まるでいつか夢見た、“ナナだけを守って生きる”そんな生き方の真似事を……いつ死ぬかわからない毎日の中だからこそ、一度それを叶えてみたかった。
私服に着替え、ナナを待ちながら食堂で紅茶を飲んでいると、資料を抱えたナナが通りがかり、俺に気付いて足を止めた。
「―――リヴァイ兵士長、早いですね。」
「あぁ。」
「すぐ着替えます、すみません。」
「いや急がなくていい。今日は立ち合い人もいねぇしな。鍵を借りてる。勝手に見ろ、だとよ。」
「そうなのですか。」
「ついでに飯も外で食うか。」
「はい、わかりました。」
ナナはパタパタと俺に背を向けて、自室に着替えに向かった。その直後、能天気な声が俺を呼んだ。
「あれ兵長、今日もう終わりっすか、早いっすね!」
「――――あぁ、今日は用事がある。」
随分足も回復したサッシュが、カップを持って食堂にやって来た。湯を沸かして、どうやら紅茶を淹れてるようだ……が。