第178章 羽化
「――――思い通りになんてならないから、楽しくて……苦しくて、素敵なんだよ。」
「そういうものなの。」
「だから私は楽しかったよ?」
「なにが?」
「――――ロイくんに恋をすることが。全っ然思い通りに行かないし、振り向いてくれないし……自分のダメさに情けなくなるし……。」
「――――確かにね。」
「思う節がある?」
「――――なんでも思い通りに動く従順なエミリーよりも、今生意気に僕に説教をしてるエミリーのほうが好きだと思うのは、そういう原理か………。」
僕の言葉に、またエミリーはきょとんとしてから、朗らかに、笑った。
「原理って。」
「なに。」
「ロイ君て、面白いね。」
「面白い……?」
――――初めて言われた。
僕には、まだ僕が認識していないものが一体どれほどあるのだろう。その可能性に、嬉しくなる。
「面白いって初めて言われた。」
「そう?」
「きっと僕の知らない僕って、いっぱいまだあるんだな。」
「そうだよ!」
「――――一緒に探してくれる?」
「――――………。」
「これからも。側で。」
「――――もちろん……!」
またエミリーは泣いた。
泣き虫だな。
でもいい。
僕がその涙を、拭うから。
――――厄介な僕の自分探しに付き合ってもらうんだ、それくらいの見返りは提供するつもりだ。
――――このエミリーに向ける温かくて、もどかしくて、心臓がきゅっとなって……体温が上がる症状や、エミリーの笑う顔が見たい……だなんて柄にもなく思うこの気持ちをひっくるめて、世間では“愛おしい”と呼んでいるらしいと僕が気付くのはもう少し後のこと。
――――姉さんが次に王都に戻った時には……ちゃんと話そう。
僕の想い、そして僕の過ち。
義兄さんと交わした――――……手紙のその内容も。
――――蟠りをちゃんと解いて、僕は今度こそ……エミリーに恥じずに向き合えるように、なりたい。