第174章 燈
「――――ちっ。朝飯食って帰るぞ。」
「……だからさっきから私そう言ってるのに……。」
少し膨れて見せながら私も上体を起こすと、ふいに目の前に黒い瞳が。
「――――ん。」
触れるだけの、キスだ。
不意打ちのキスに戸惑いながら、目の前で瞼が開かれて私を見つめるブラックダイヤモンドのような美しい瞳に吸い込まれそうになる。
「――――お前をまた抱けて、夢のようだ。」
「――――……どこでそんな甘い言葉、覚えたんですか……。」
「本心だ。いちいち悪態をつくな。ただ恥じらって濡らしてろ。」
「………エロじじぃ………。」
「あ?ヤんのか?」
「ごめんなさい。」
意味のない悪態をつきあったと思ったけれど、振り向いて私の頬に手を寄せたリヴァイさんの表情はどこまでも優しくて、“愛しい”と顔に書いてあって。
まだ心の整理をしきれずに、若干の罪悪感を否めない私は曖昧に笑んだ。
「――――さて、準備して、出るぞ。」
「はい……。」
私たちは街に出て朝食を済ませ、約束通り10時になる頃にアントヴォルの街を出立した。
昨日の雨が嘘のような蒼天。
―――――まるでエルヴィンの瞳のようだ。
私はなんとなく空を見上げることができなくて、野を彩る花々に目をやりながら、馬車に揺られた。