第171章 感応
無理矢理魂を引き抜かれるようなキスに朦朧として、足に力が入らない。唇を解放されても荒い息のまま床にずるりと座り込んだ私をリヴァイさんは軽々と抱き上げて、ベッドに降ろした。
せめてもの抵抗に背を向けて窓の方へ逃げるも、彼は背中越しにまた強く、私を抱き締める。
背中に自分のものとはまるで違う体温と鼓動を感じる。
私よりもずっと高い体温。
身体の中に炎でも宿しているんじゃないかと思うほどの、私を溶かす熱。
強くて速い鼓動は、私の背中越しに背骨からあばらに……心臓に、その振動を伝え続ける。まるで私の頑なに閉じた殻を、少しずつ壊していくように。
「……ナナ。」
耳元に唇を寄せて、私を抱く腕に力を込めて切なく掠れた声で私の名前を呼ぶ。
いつもの強気で強引で、余裕のあるあなたの声じゃない。
弱々しくて、縋るようで………泣きそうで………。
――――その声で、呼ばないで。
私の心を無理矢理奪おうとしないで。
エルヴィンが見てる。あの空から。
「―――や……っ………」
身を捩って抵抗しようとするけれど、微動だにしない。
するわけない。
そうだ……いつだってこの人は、力づくで私を抱こうと思えば簡単に組み敷いてしまえるのに。
――――大事なところは必ず私に選ばせる。それは一貫していて………こういう時には……とても残酷だ。
エルヴィンを忘れることなんてできない。
彼が永遠に愛してると遺してくれたから、私もそう、あるべきで。
私だけがまたリヴァイさんの腕に戻って、ぬくぬくと守られて生きるなんて、赦されない。
エルヴィンをまた、傷付ける。
――――それに私はリヴァイさんのことが大切で。
だから悲しませたくない、絶望させたくない。
どんなにあなたが私を求めてくれても………応えちゃいけない。
だってそうでしょう?
失うことを怖がるあなたに、いつ死ぬかも知れない私は最も相応しくない。
きっと出来るはず。
毅然と振る舞う。
――――想いを寄せてくれていたエレンにだって、そうできたから。
異性としての顔を向けちゃいけない。
そう言い聞かせながら、なんとか一生懸命に冷たい表情で取り繕う。