第169章 涙雨
ナナの手が触れた瞬間、強くその手を引き込んで腕の中に閉じ込める。
驚いて俺を見上げるナナの唇を塞いだ。
「?!?!―――――んっ……ぅ!!」
ナナは必死に抵抗するが、無駄だ。
ばんばん、と俺の胸を叩くナナの一応言い分を聞こうと一瞬唇を解放すると、涙目で嫌悪の表情を見せる。
「何するんですか!!今……過呼吸……っ……、なって、ません……!!」
「――――惚れた女に欲情して何が悪い。」
「――――………!」
――――傘があって良かっただろう?
お前はいつも、死んだ奴らが “空から見てる” と言うからな。
「――――傘さしてりゃ見えねえしな。」
「――――だめ、ちがう、そういう事じゃな……っ……!」
「俺の手をとっちまったお前が悪い。――――悪い男にまた捕まっちまった自分の無防備さを恨め。」
そしてまた、強引にナナの腰を引き寄せて唇を奪う。
――――そうだ、奪い取れ。
後悔しないように……欲しいなら、素直にその手を伸ばして掴み取ればいい。
「―――――やっ、ら、め………!」
「――――………。」
「――――私、の………うばわ……、な………で……。」
息を継ぐ隙間にナナが懇願する何かを、全てを聞きもせず問答無用だと却下する。
「――――聞こえねぇし、聞く気もねぇ。」
ナナの頬を一滴の水滴が伝ったのにも気付いてた。
――――だがそれも全部、この、雨のせいだ。