第168章 緒
仲間を失う悪夢じゃなく、エルヴィンが私に背を向けて行ってしまう夢でもなく、きらめく木漏れ日が降り注ぐ中でエルヴィンと外の世界の話をしたあの日の――――……夢を見た。
ぱち、と目を開けて窓の外の蒼天を見上げると、僅かに口元が緩む。……久しぶりに思ったんだ、朝日が、空が、綺麗だって。
「――――いい朝……。」
胸に抱いたエルヴィンからのラブレターは私に安らかな眠りを齎してくれて……、そうだ、きっとリヴァイ兵士長に連れられてちゃんと晩ごはんを食べたから……体調がいいのかもしれない。
今日も少し、頑張って朝ごはんも……食べてみようかと、思う。
食堂の隅で少しのパンをかじっていると、松葉杖が床を鳴らす音がした。振り返ると、そこにはサッシュさんの姿があった。
「おっ、食ってるじゃねぇか、偉い偉い。」
私の頭を相変わらずガシガシと撫でると、サッシュさんは私の隣の席に松葉杖を立てかけた。
「えっ、もう歩いてるんですか……?!」
「おう!なんたって分隊長だからよ!!しかもまぁ聞けよ、俺こないだの奪還作戦でついに討伐数が80を超え――――いてっ!!」
サッシュさんが上機嫌で話すそれを、後ろから来たリヴァイ兵士長が頭をはたいた。
「――――朝からうるせぇ。」
「兵長!!いやもうナナにも言ってやってくださいよ!こいつ本当に最近リンファに似て生意気になってきてですね……、俺のことを敬う姿勢が足りないっつーか……。」
「敬ってますよ?とっても。」
ふふ、と小さく笑って答えると、サッシュさんはムッとするどころか……私を見て、安心したように微笑んだ。