第167章 Love Letter
その誰宛かもわからない、ただの覚書のような一通の封筒は、思いの外深く深く、私を思考の渦に取り込んでしまった。
私はまた答えの出ない胸の内の葛藤を抱えて、中の便箋をしまおうと折りたたむ。
そして――――その便箋の裏にもう一つの、彼の筆跡を見た。
“Do as you wish.”
“ I love you, forever…,Nana.”
なぜ“誰宛でもない”って、思ったんだろう。
この文字は……この壁の中でただ一人、私しか読める人は……いないのに。
こんなに……くすみ一つない想いの強さを証明するような真っ白な便箋に、走り書きなんかじゃなく……一文字一文字丁寧に、想いを込めて………書かれてるのに。
――――これは確かに、あなたが私に宛てた、最初で最後のラブレターだ。
「―――――っ………エルヴィ………。」
私はまた、崩れ落ちて泣いた。
胸にその手紙を抱いて………今はこの涙を、拭ってくれる人はいない。
いいの、それで。
今はただ、あなたがこの手紙に込めた想いを全て残さず受け取るために……泣きながら何度も何度も何度も、それを………読み返した。
「変化、こそが……永遠って、言っといて………、“永遠に愛してる” は、矛盾じゃない………?ねぇ、エルヴィン………。」
泣きながらその内容に、不満を呈してみる。
すんなり終わらせてくれない、いつまでもあなたはこうやって……私に考えさせるんだ。
あなたのことを。
「あなたは最後まで、本当に―――――………一筋縄じゃいかないなぁ……。」
――――好きだよ、そんなところも。
これからもずっと。
私はエルヴィンの香りのしない自分のシーツに包まって、エルヴィンを失ってから初めて誰の手も借りずに………
そのラブレターを抱いて………安らかで甘い眠りについた。
―――――夢で会いたい、あなたに。
そう、願いながら。