第164章 記憶
葬送の儀が終わってすぐ、俺とミカサは懲罰房に入れられることになった。
理由はもちろん、ウォール・マリア最終奪還作戦内においての上官の命令に背き、しかもミカサはリヴァイ兵士長に襲い掛かった。罰されるのは当然だ。14日間の懲罰とのことだ。
けれどどのみち、みんな満身創痍でしばらく調査兵団の調査どころか訓練や実験も行われることはない。
体力を回復させる期間だと思って、薄暗く湿った地下牢のベッドに転がる。
頭に浮かぶのは、あの日地下室で見た父さんの手記と世界の真実。この巨人の脅威にさらされているだけの世界がむしろ平和だったのだと思い知るほどの、絶望的な状況。
――――アルミンやナナが描いたような夢と希望に満ちた外の世界とは程遠く―――――……俺達の敵は………“外の世界そのもの”だった。
この地下の独房には太陽の光はもちろん入らないから、今が何時なのかもわからない。
独房に入れられたのが夕方。
それから2、3時間は経ったか……と思っていると、とん、とん、とゆっくり階段を降りて来る足音がする。
「あ、食事かな。」
見張りで座っていたアルミンが席を立って、扉を開いた。
「――――ナナさん……。」
アルミンが小さく、ほんの一瞬動揺したようにその名を呼んだ。また足音がして、俺の独房の前には兵服を着て、昼間よりは随分気を取り直した様子の―――――ナナが食事を手にして立っていた。
「――――ナナ……!大丈夫なのか……?!」
その首には、さっきは無かったはずの傷……?当て布と包帯が撒かれていて、食事の乗ったトレイを持つ右手の指先にも痛々しく包帯が撒かれている。
「――――大丈夫だよ。」
「火傷、してたじゃねぇか……。」
ナナは少しだけ笑って、平気だ、と言った。