第163章 相殺
「――――紅茶、淹れ直すか。」
リヴァイさんがチラリと紅茶のポットを見た。
「あっ……、本当だ。」
ポットの蓋を開けると、茶葉がふやけにふやけて……ものすごく濃い色の紅茶。
少しだけカップに注いで、飲んでみる。
それはとても複雑な味。
甘く香ばしい味も残しながらも、苦くて渋くて……顔を背けたくなるような……好んで受け入れたくない、そんな味。
「渋くて飲めたもんじゃねぇだろ。」
「――――ん……はい、ちょっと渋いし苦いけど………。」
「けど、なんだ。」
「――――今の私達みたいで……これはこれで……悪くない、です。」
そう言うと、リヴァイさんもポットからその黒ずんだ紅茶を淹れて――――口をつけた。
「――――ああ、そうだな……。次は、もっと甘くて美味いのを飲ませろ。」
「――――ふふ、はい………。」
甘くて美味しいところだけじゃない、
渋みも、苦みも、えぐみも含めて味わって………
涙ながらになんとかそれを飲み込んで………
でも。
だからこそ甘く幸せな時間、美しくかけがえのない大切なものが当たり前じゃないんだと、気付けるから。
私たちはまた、これから共に前を向いて生きていく。
それを誓うように、窓の外の……朱く色づき始めた蒼天を見上げる。
―――――ねぇエルヴィン。
あなたが私が後を追うことを望まなくて、私達の行く末を……この先の未来を見守ってくれているのなら。
私はあなたを失って辛くても、
うちひしがれても……
もう少し……生きていられるうちは、足掻こうと思う。
『―――――それでこそ、俺の愛する女性だ。』
エルヴィンのその蒼のような空から、
ふっと彼が笑ってくれた気がして―――――
また切なく涙を堪えながら目を伏せた私の頭を、リヴァイさんが優しくさらりと、撫でてくれた。