第163章 相殺
もう何度、仲間が死ぬところを見たか。
その亡骸が燃えて――――、灰になるところを見たか。
俺は何も感じない。感じない……はずだった。
ずっと。
その意志を継ぐ決意や、哀悼の意はあれど――――、辛いだとか、泣きたいだとか……そんなものは存在するだけ無駄だった。
俺を――――乱すから。
だからイザベルとファーランを失ったあの日も、耐えられた。慟哭を上げたくなるような、身を蝕むような苦しみも悲しみも、感じないと言い聞かせた。
そうでなければ、いざという時に刃が鈍る。
命を断つことに躊躇しない。
俺が生きる意味の中で、それは必要な覚悟だった。
自分の中に渦巻くなんとも言えねぇ感情を持て余しながら、自室から窓の外の蒼天を見上げた。
――――ナナの錯乱した姿が、目に焼き付いて離れない。――――もし……エルヴィンを選んでいたら……ナナの元に、返してやっていたら………ナナはあんなにも傷付かずに済んだのか。
エルヴィンを地獄に呼び戻しても、その苦しみすらナナが寄り添って癒し、今度こそ掴んだ外の世界への手がかりに目を輝かせて2人、幸せそうに歩んでいけたのか。
―――――その方が、良かったのか。
エルヴィンのためという思考は俺が生み出した虚像で……本当は………本当に………俺は思わなかったか?
『俺が死ねば、ナナが自分の腕に戻って来る、と……一度でも過らなかったか?』と……エルヴィンから問われたそれは呪縛のように頭の中を巡る。
―――――吐き気がする。
自分の汚さに。
狡さに。
正解など誰にもわからない。
いつだってそうだ。
だから後悔しないように選ぶ。
そうずっと言い聞かせて来たのに―――――……ナナを抱き締めて唇を合わせると沸き起こるクソみてぇな汚ねぇ欲が俺の思考を支配する度に、その欲が俺に誤った選択をさせたんじゃないかと……そしてそれが結局ナナを、エルヴィンを苦しめているんじゃないかと――――……らしくもねぇ負の思考が頭をガンガンと打つような痛みに変わる。
「―――――くそ………っ………。」
頭を押さえて俯いていると、思ったより随分早く、部屋の扉が鳴った。
ナナが――――来たのだろう。