第161章 劣情
―――――懐かしい、その大好きだった……石鹸と少し汗の混じるリヴァイさんの匂いに包まれて、目を開けた。
どうやら少し、眠っていたようだ。
リヴァイさんは苦しいほど私の身体を強く抱き締めている。
――――だから、私の身体はバラバラにならずに済んだのかもしれない。リヴァイさんがこうしてくれていなければきっと……私の腕も足も首もぼとり、と落ちて――――バラバラに朽ちていくだけだったと思う。
かろうじて身体はリヴァイさんが繋ぎ止めてくれた。
……けど……涙は一向に枯れそうにない。
体中の水分が涙に変わるまで泣けば死ねるのかと、この期に及んでまだ馬鹿らしいことを思う。
「――――ナナ………?起きたのか………?」
リヴァイさんが少し腕を解いて、私の頬に手を寄せる。
涙でぐしゃぐしゃな顔を見せたくなくて、またリヴァイさんの胸にぐり、と顔を埋めた。
「――――………。」
何も言わずにリヴァイさんはただただ優しく、私の髪を撫でてくれる。――――さっき真剣に叱ってくれたのが、まるで嘘のように。
いつもリヴァイさんは私に気付かせてくれる。
私はいつもいつも自分のことばかりで――――……この人に、何度導かれただろう。
何度、叱られて――――……そして何度涙を、拭ってもらっただろう。
なんでこんなに、こんな私の側にまだ……いてくれるの………?
私には過ぎる愛情なのに、慣れちゃいけないのに………またこうやって、甘んじてしまう。
リヴァイさんの言う通りだった。
私は―――――エルヴィンを失ったまま生きていることができなくて……、なんとか一緒に死ぬ理由が欲しくて、ワーナーさんの……せいに……エルヴィンの………せいに、しようとした………。
私が感情を爆発させて泣き叫んだ合間に聞いた、リヴァイさんの言葉。
『お前は大丈夫だナナ。ここにいる。――――俺が側にいる。』
――――突き放したのは私なのに。
傷付けるのはいつだって私なのに。
―――――あなたは………あの頃から………こういうところは、何も変わってない………。
不器用で真っすぐで、ただただ強く愛してくれる。