第160章 虚無
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「――――ちゃんと聞け、あいつの死に様を。」
「…………!」
「エルヴィンは獣の巨人による投石を浴びて腹部を損傷、瀕死だった。そして――――アルミンもまた瀕死だった。俺は巨人化させられる注射を持ってた。エルヴィンを巨人化させれば――――あいつは死なずに済んだ。だが、俺はアルミンを生かすことを選んだ。」
「――――………!」
俺の言葉に、ナナが目を大きく見開いて俺を見上げた。
「あいつを見殺した俺を、恨むか?」
「……………。」
ナナは呆然とした顔で、俺をただ、見ている。
「なぜエルヴィンを見殺した?と聞きたそうだな。――――それも教えてやる。」
ナナの耳元に顔を寄せ、残酷な言葉を告げる。
「――――あいつが死ねば、お前は俺の物になる。そうだろう?」
「――――………。」
俺の言葉に、絶望を張りつけたような顔を向ける。
怒るだろう、軽蔑するのか、恨むのか。
泣きわめくのか。
それでもいい。
その感情を押し殺して耐えようとする、仮面みたいなお前よりは幾分もマシだ。
「――――なんでっ………!」
ナナが困惑を極めた表情で、震える声で言った。
「――――お前を手に入れるためだ。」
「――――嘘つき、嘘つき……っ……馬鹿……っ……!」
ナナは固く目を閉じて、俺の言葉を否定するように首を激しく横に振った。
「――――嘘じゃねぇ。俺がエルヴィンを―――――。」
「――――ッ……本当の理由を言って!!!!!」
「―――――………。」
ナナの言葉に、一瞬思考が止まった。
何を言ってる?
エルヴィンが死ねばナナが俺の元に戻ると悪魔が囁いたんだ。
だから見殺した。
それだけだ。