第156章 ウォール・マリア最終奪還作戦③
昨日の大地を灼くような夕陽を見送って……月の昇らない闇は、星々が一層輝いて見えた。
こんなにも高い壁上からでも、もちろんウォール・マリアやシガンシナ区までは見えない。
ただ地平線の向こうにいる彼らを想うことしか、できない。
「――――いつまでここにいる気だ、ナナ。」
「――――ナイル師団長。」
振り返るとそこには――――同期の死闘を想い、作戦の成功を願っている人がいた。
「ふふ。」
「なんだ。」
「――――覚えて下さったんですね、補佐官、じゃなくて……私の名前。」
「お綺麗で優秀でそつなく、いけ好かない補佐官だと思っていたんだがな。実のところとんでもなく無鉄砲で大胆でどこかの――――馬鹿みたいな奴と同じだなと思ったら……覚えもする。」
「――――うちの団長をお褒めに預かり、光栄です。」
「………言ってろよ。」
闇の中、ただまっすぐに彼らのいる場所から目を逸らさない。
「――――あいつらが戻るまでここにいるつもりか?」
「はい。」
「まだ夜はかなり冷える。兵舎へ戻れ。」
「嫌です。」
「――――そう、言うと思った。」
ナイル師団長ははぁ……と大きくため息をついた。
気付けば、ばさっと頭から何かを被せられた。
――――毛布?
「………女が体を冷やすんじゃない。」
近くで見上げるその強面は、さらに仏頂面でもあって……でも、その目は、とても優しい。
私は素直に毛布を受け取って、包まった。
「ありがとうございます。ナイル師団長。」
奥様がこの人を好きになるはずだ、と小さく笑みが零れる。