第153章 夕陽
ウォール・マリア最終奪還作戦前日の朝。
まだ少し夜の余韻が残る、暁の頃。
私はぽかぽかと温かい体をむくりと起こした。
――――けれど、左腕しかないはずなのに物凄い力で、またその腕の中に閉じ込められる。
「……あ………っ……、起きてるの………?」
「――――………。」
眠ってる。無意識に引き寄せたのだろうか。
エルヴィンは一緒に眠ると、起きた時に私がそこにいないことをとても怖がる。――――この人にも、怖いことがあるなんて。
「――――とても良く眠れてるみたい。………良かった………。」
眠るエルヴィンの顔をまじまじと見つめる。
なんて整った顔立ち。
私はお義父さまのことを知らないけれど、きっとハンサムだったんだろうな、と想像してみる。
そしてもう一つ、この寝顔は限られた人しか知らない。
彼は弱みを見せないから――――、心を許さない人の前では眠らない。こんなに無防備に、私に全てを預けて眠る大切なあなたが、心から愛しい。
「――――地下室の秘密を、持って帰って来てね。必ず帰って来てね。」
エルヴィンの髪をさらりと撫でながらつぶやく。
心の内で、言葉に出すべきものを精査しながら。
だって本当は………『行かないで、側にいて』って言いたい。『片時も離さないで、どこまでも連れて行って。例え地獄でも』って、言いたい。
「――――ダメだなぁ、私………、ちっとも………強く、なれない………。」
ここ最近はふとしたことですぐ涙が出る。
手の甲で涙を拭いながら、あと僅かな平和で温かい時間を惜しむように、エルヴィンの胸にすり寄って―――――また少し、眠った。