第148章 其々 ※
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とんとん、とナナの胸を小さく打つ。
それをこいつが好み、眠りに落ちやすくなるからと同時に―――――俺はこの鼓動が止まることがないように、と微かな願をかける。
今ひとときの穏やかな時間を過ごせているが、すべての準備が整えばまた、殺し合いが始まる。恐らくそれは俺達がウォール・マリア奪還を決行する時。
それまでに仕掛けてくる可能性もないとは言えねぇが……おそらく奴らも相当な痛手を負ってる。ここすぐに、というわけにもいかないはずだ。
エレン……そしてあわよくばアニを奪い返し、俺達を今度こそ殲滅しようとするだろう。
ライナーと……ベルトルトは。
だが俺が必ず殺す。
あいつらにとってこの世界がなんなのか、俺達がどういう存在なのかは知らねぇが――――
俺にとって、ナナが生きるこの世界は守るべきものだ。どれほど残酷であっても、ナナが大切にする命をこれ以上奪わせるわけにはいかない。
「そういや……まさかこいつ……ウォール・マリア奪還作戦も行くと言い出すんじゃねぇだろうな……。」
エルヴィンが『壁外調査には出さない』と調査兵団に残る条件として提示していたが……どうせこいつは『調査じゃないです』だの『私が行かなきゃ』だの屁理屈をぬかして駄々をこねるんだ。
人の気も知らねぇで……。
そしてエルヴィンは―――――表向きはナナの意向を尊重すると言いつつ、本当は……その独占欲故に、死のリスクがあってもなお自分の側に置く気だ。
人の気も知らねぇで……クソが……。
だが結局のところ、意思を決めたナナに俺も逆らえなくていつも折れる羽目になる。
つくづく、めんどくせぇし手がかかるし強情で仕方のない女だな。
「まぁ…………それがお前だからな。」
ぐっすりと眠ったナナに、あの頃のエイルの面影を重ねながら髪に指を通す。
ナナは俺をヒーローだの魔法使いだの言うが、俺はそんな大層なもんじゃない。
このままナナが眠り姫のように永遠の眠りについても、目を覚ましてやる役目は俺じゃない。
だからその目が永遠に閉じることがないよう、俺は――――
ただ願うだけだ。