第146章 食欲 ※
ヒストリア女王が即位してからしばらくは、戦いとは無縁の日々だった。でももちろん王政の中枢に座ることになった兵団の幹部は多忙を極めていて、エルヴィン団長もリヴァイ兵士長も同様だ。
私はというと、そんなお2人の手伝いをする日々だ。
ご丁寧に私にまで私室が振り分けられて……ただただ何もできないのに心苦しい。
けれど、日によって朝起き上がるまでに時間がかかったり、時折鼻血が出たりする。なんてことはないのだけど、少量の出血であってもやっぱり血が止まりにくいから、同室の兵士がいれば心配をさせてしまうことは明白だ。
だから――――ありがたく私室を使わせてもらっている。
エルヴィン団長の采配で仕事量は加減してもらっているもののやはり徐々にふらついたりする頻度が上がってきていて、エルヴィン団長との約束通り、週に1回はボルツマンさんのところで診察を受けている。
今日も、体や血液の状態を調べるために病院へ足を運んだ。
「徐々にだが進行はしている。――――兵士などやっていて辛いだろう。」
ボルツマンさんが検査結果を見て眉間に皺を寄せる。
「いえ?充実しています。」
「………強がりを……。」
「体はこんなですが、心はすこぶる晴れやかで健やかですよ。」
「………体も健やかにならんでどうする。お前を愛している者達を悲しませるな。」
「そうですね。」
「――――少しこの病について過去の症例を調べてみたんだが。」
「えっ。」
「もちろん奇病だからな、あまり報告例がないが……気になるのは、進行度合いの早さと患者の居住区の関連性だ。」
ボルツマンさんが資料を見せてくれた。
……確かにその資料の中では、王都、城壁都市、山間部の村、地下街………いくつかの症例が書かれていた。