第144章 恋着
俺はどうやったって敵わない。
この我儘で強情でひたむきで―――――、何より愛しい存在に。
ナナはとことん俺に苦行を強いる。
最愛の存在を、見捨てる判断をしろと。兵士長の仮面を被れと。そして今度は――――、その鼓動が止まる瞬間さえも側で見届けろと。
俺はそれを承諾するように、この腕に閉じ込めた。
なぜなら、ふと想像した。
一人ベッドの中で泣きながら俺を呼んで息絶えるナナを。
また俺のいないところで悲痛な声で俺を呼ぶナナを。
共にいればその声に応えてやれる。
いつだって俺が応えて振り向くと、ナナはたまらない顔で笑うから。
―――――そう、思うことにした。
気丈に振る舞ってはいても、ナナは医者だ。
おそらくその病の実態は、俺達に話したよりもいくらか恐ろしいものなんだろう。その怖さを知っているからこそ、恐怖に押し潰されそうになるその心を、鼓舞して欲しかったのか。
ナナの目から零れる宝石のような涙の粒を舌で掬っては、キスに変える。
――――地下街に居た頃は、涙の拭い方すら知らなかった。
ナナがワーナーの死を知って涙を零した時、初めて涙の拭い方を知って――――、今はもう、お前の涙もどうすれば止まるのか、わかる。
「――――俺を悲しませたくなきゃ、せいぜい足掻いて生きてろよ。お前が言った通りだ。俺を癒せるのは、お前しかいないんだからな。」
腕にナナを抱いたまま耳元でそれを囁くと、ナナは少し驚いた顔をしてから、ふにゃ、といつものように柔く、笑った。
「――――そうします……!」
昂奮して声を荒げたからか、感情が昂ったからか。
たったそれだけのことで、ナナの息が少し上がっている。その身体をゆっくり、だが着実に蝕んでいることが―――――怖い。