第143章 我儘
エルヴィン団長の会議が終わる頃、私は待ちきれなくて会議室のから少し離れた廊下で待っていた。
ガチャ、と扉が開いて―――――、ザックレー総統やピクシス司令も出て来られた。思わず背筋をピンと伸ばして敬礼すると、お2人ともふっと柔らかな笑みを見せてくださった。
――――と、思ったその時、お2人ともが私のところに歩んで来る。驚いて目を丸くしていると、ザックレー総統がなにやら少しご機嫌に話しかけてきた。
「―――ナナ、久しぶりだな。」
「はい。ザックレー総統もお元気そうでなによりです。この度のご英断とその成功に、心より尊敬の念を込めてお喜び申し上げます。」
「あぁそれはもう。元気どころか……毎日楽しくて仕方ない。そうだ、またチェスを一局頼む。その折にはぜひ君に見せたい芸術作品があってね。」
ザックレー総統がぽん、と私の肩に手を置いてニヤリと笑う。
「はい、チェスもぜひ。芸術作品ですか……それは楽しみです!」
私が笑んで答えると、なぜかピクシス司令が大きなため息をついて首を横に振った。
「……やめておけナナ。後悔しか残らん、おぞましいものだ。見る価値もない。」
「??」
「……ピクシス、お前にはわからんか、あの芸術性が。」
「……わからんね。そしてナナに見せるんじゃない。仮にも兵団のトップの品性を疑われるわい。」
「は、分からん奴だな……。」
「??」
お2人の会話の意とするところがわからず、目を丸くしてお2人の顔を交互に見ていると、ピクシス司令がふっと小さく笑って言った。
「――――これから忙しくなる、ナナ。頼むぞ。」
「はい!」
お2人が去ってすぐ、待ち望んだその人が姿を現した。
「エルヴィン団長!!」
「――――ナナ………!」
以前の馬車の中での一瞬の逢瀬よりも少し顔色も良いように見える。今度はお互い、団長と補佐官の距離感をちゃんとわきまえながら歩み寄る。