第142章 初口
ロッド・レイスの巨人体を討伐した日の午後、少しの休憩を挟んでから調査兵団は複数の班を編成し礼拝堂付近の調査と兵士の生き残りがいないかどうかの確認に出かけた。
あの巨体が地下から這い出てきたために、地盤は崩れ去り多くの兵士がその下敷きになり、遺体すら見つけることは困難だった。
――――一つ気がかりだったのは、まさかこんな洞窟の崩落に巻き込まれて死ぬような奴じゃねぇあいつが……どこに行ったのか、だ。
……ケニー。
聞きてぇことが山のようにある。
放っておけば、また調査兵団の不利益になる動きをする―――――……そして、ナナを狙うかもしれない。
礼拝堂から少し離れた森にまで探索の手を広げると、地面に点々と血の跡を見つけた。
それを辿ると―――――そこには、ケニーが虫の息の状態で木に背中を預けて座り込んでいた。
「――――ケニー。」
部下がケニーに一応は銃口を向けるものの、もう攻撃どころか……動けもしない。死を待つだけの状態だ。
「……何だ………お前かよ………。」
「俺達と戦ってたあんたの仲間は皆潰れちまってるぞ。残ったのはあんただけか?」
「……いや、うちの若けぇのを……お前んとこに預けてるだろ……。まぁ、可愛がってやってくれや……。」
――――アーチのことか。
「アーチか。あいつの兄貴が責任を持って面倒を見る。心配ない。」
「………そうか……。」
息も絶え絶えだ。
―――――不死身なんじゃねぇかと思うほどの力を持った男も、これで最期か。
「……兵長、彼も……もう……。」
「報告に行け。ここは俺だけでいい。」
「了解しました。」
部下がその場を去ってから、俺は聞きたかったことをケニーに問う。
「……大ヤケドにその出血……あんたはもう助からねぇな。」
「……いいや?どうかな……。」
ケニーは左手を微かに動かした。
その手には……巨人化するための液体と注射器が収まった箱。
ロッド・レイスが持っていたものか。