第141章 覚悟
「――――……お父様に、言って欲しかった……言葉なんです……。」
やっぱり駄目かな。
ふふ、と自嘲気味に目を伏せて笑うと――――、家族を省みずに必死に医学に生きて来て――――、沢山の人の命を救った皺だらけの大きな手が、思いの外優しく、私の頭を撫でた。
驚いて目線を上げると、ボルツマンさんはどこか切なく、何かの面影を重ねるような優しく悲しい瞳で私を見た。
――――もしかしたら彼もまた、本当は家族にこうしてあげたかったのではないかと想いを馳せる。
けれど彼は決してそんな泣き事を言わない。
困った奴だ、と言う顔で私に、欲しい言葉をくれた。
「――――行って来いナナ。頑張れ。―――――ただし、無茶はするな。」
「………ふふっ………、はいっ………!」
用意してくれた馬車で一度家に戻り、ハルに話をしてから王都の兵団本部に向かう。
やっと会える。
みんなを労って、思う存分抱きしめたい。
エルヴィンを、リヴァイさんを、ハンジさんを――――、エレンを、ミカサを、アルミンを。
そして―――――、憲兵に拘束されているロイも、そこにいるはずだから。
みんなに会いたい。
早く会いたい。
今すぐ会いたい。
皆の元へ戻るこの馬車の道中は、馬車の窓から流れていく景色までもキラキラと輝くように見える。
青空も、流れる雲も、風に揺れる草花も。
あなた達がいるから、世界は素晴らしく、美しく鮮やかに彩られるの。
―――――久方ぶりの自由の翼が配されたジャケットに身を包んで、髪を高く結い、髪飾りをあしらう。
そして―――――、胸ポケットにはお守りのクラバットを忍ばせる。
例え命が尽きるとしても。
その最期の瞬間まで調査兵団の団長補佐ナナ・オーウェンズとして、誇りを持って生き抜くと誓う。