第141章 覚悟
馬車に揺られて、ボルツマンさんのところへ行く。
――――お母様の病院で診てもらうには少し深刻そうで、より充実した医療提供が出来る場所でと、ロイがすでに話をつけていた。
私の手をずっと握ってくれているのは、お母様だ。病院を急遽休診して、付き添ってくれた。――――別に何も怖くないし心配いらないと断ったのだけど、『少しくらい母親らしいことがしてみたいの』とお母様が笑うから、甘えることにした。
病院に着くと、用意されていた個室に通されて検査着に着替える。もう随分ましになったけど、一時は身体がまだら模様に見えるほど痣だらけだった。
お母様が私の身体を見て、苦しそうに口元を抑えた。
「――――うつる病気じゃないと、いいなぁ……。」
小さく零した私の言葉に、お母様が同意する。
「そうね……。」
「……もし体液でうつるものだったら、エルヴィンと―――――……ダミアンさんにも連絡して、検査を受けて貰わなきゃ。」
「……そう、ね……。」
「うん、でもなんとなくだけど――――、感染性の物じゃない気がする。」
「なぜ?」
「………医者の勘。」
私がひひ、と笑うと、お母様は眉を下げた。
「あとは……私だって結構頑張ったから――――、日ごろの行いは良いはずなの。だから――――神様も、これくらいの願いは聞き届けてくれるはず。」
「――――ナナ………。」
ふいに、お母様が私を抱き締めた。
「どうしたの……?」
「――――今初めて、リカルドが――――……私を屋敷に閉じ込めたかった気持ちが、分かった気がする………。」
「え………?」
「――――手の届かないところに、行ってしまう気がして………。」
お母様が私を抱き締める腕に力を込めた。
大丈夫、そう簡単に死なないよ、とも………言えなくて。
私は黙って、身を預けた。
その時扉が鳴って、私は検査室に向かった。