第139章 苦闘
「――――まだ確実じゃない……!」
ロイはガタン、と椅子を跳ね除けて立ち上がった。
何かに怯えるように、荒くふぅふぅと息をしながら、両手の拳を握りしめた。
「でも、可能性は高い。」
「なんで、そんなに……っ冷静なんだよ、命がかかってるんだよ?!」
「うん。でもほら、私達最近危ない橋渡ったところじゃない?だから……なんとかなるかなって。」
「――――とにかく、骨髄を調べる。ボルツマンさんには話してあるから。明日迎えが来る。すぐに検査を受けて。」
「わかった。私もね、そうかなってちょっと思ってた。けど……それにしては元気だし、なんでだろうって。私、運がいいのかな?」
私の頭を過ったのは、――――血液の異変。
血が出やすい、血が止まりにくい事を自覚していたから。現に―――――エルヴィンの痛みを受け止めた時の身体中の痣は、普通じゃ考えられないほどの数だった。
それに極度の貧血。
医学生時代にこの病気での症例を見た時はぞわ、と体が震えるほどだった……発症から僅かな期間で急激に悪化し、身体中から血を吹きだして絶命する。そんな病気……。
その初期の症例と似ているものの、私の身体はそこまでの急激な悪化を見せていない。
だからもしかしたら、また違う病なのかもしれないと楽観視してみる。
「――――笑いごとじゃないよ!」
「うん、ごめん。でも……そうだね。病気なのならちゃんと知らなくちゃ。」
「そうだよ。」
「……治るなら治したい。でも、治らないなら―――――、それはそれで、腹もくくれる。」
――――そう、治らないなら。
本当に命尽きるその時まで側で戦わせて。
――――一緒に、いさせて。
怖いことのはずなのに、
なぜだろう。
私の心はこんなにも静かだ。