第12章 壁外調査
そう言うと、ナナは高く結っていた髪をほどいた。
白銀の髪が、夜風で揺れる。
手には、いつか俺がやったクラバットが握られている。
「リヴァイ兵士長に、私の持つ一番大切な物を預けます。だから、必ず返してください………」
俺はしばらく、差し出されたその手を見つめていた。
「う、受け取ってもらえないんですか……?!」
ナナは少し恥ずかしそうに眉を下げた。
「あぁ、いや…………。」
俺ははっとして、ナナの手からクラバットを受け取った。
「………必ず、生きて戻る。」
今まで、「戦果を挙げろ」「巨人を殺せ」「兵の士気をあげろ」と言われることはあっても、俺の帰りを待つ、と言われたことはなかった。
だから、死ぬのも怖くなかった。
「………悪くねぇ。」
「………待ってます。」
これほど死ねない、と思ったのは初めてだった。
悪い気はしねぇ。
だが、風に乗ってなびくナナの髪の香りに混ざって、ほろ苦い香りをほのかに感じた。
紅茶ではなく、コーヒーの香り。
エルヴィンと同じ香りをまとっていることが、俺をわずかに苛立たせる。
「ひとつ聞くが。」
「はい。」
「俺の帰りを待つのは、誰だ?兵士長を待つ、兵士ナナ・エイルか?それとも、頑固で生意気で危機感なく問題を起こす、俺がガキの頃から知っているナナか?」
ナナは少し不機嫌そうに、眉をひそめて口をへの字にし、俺を見上げる。
「………そこまで言われると傷つきますよ。」
「知ったこっちゃねぇな。事実だ。」