第131章 火蓋
「――――例え一時でも君を手放す、俺を赦してくれ。本当は――――エルヴィン・スミスというただの男は――――例え君が死ぬとしても、この腕の中に閉じ込めていたい。」
「――――………。」
「けれど調査兵団団長の私は、少しでも君に長く補佐官として側にいて欲しい。これからの調査兵団が歩む道に、君は必要だから。要らなくなんてないんだ。君が必要だから、寂しい想いをさせるけれど――――しっかり養生してきてくれ。また、すこぶる働いてもらう。」
「――――ややこしいよ。」
ナナは少しだけ、笑った。
「――――キスしていいか。」
「――――それはただのエルヴィンとして……?」
「――――両方だ。君のことに関しては――――どちらの俺も、歯止めが効かない。」
ナナの返事も待たず、その唇を塞ぐ。
冷たい唇に触れた瞬間、この愛しい存在の体温が無くなるその瞬間を想像してしまってゾッとする。けれど舌を割り入れると――――彼女の中は温かくて、生きているんだ、ずっとこの先もこうして――――体温を混ぜ合って、繋がって、一緒に生きていけるはずだと思い直す。
「――――しばし、茨の城で眠っててくれ。俺のお姫様。」
唇を離して、あやすように言葉を紡いで抱き締める。
その言葉を聞いたナナは一瞬目を見開いて、とても驚いた顔をした後―――――
ふにゃ、と、ようやくいつもの笑顔を見せてくれた。