第127章 苦悶
――――――――――――――――――――
ナナがようやくここにいて、と自分の望みを口に出したと思えば、続いて謎のおねだりをしてくる。
“とんとん”?
なんだそれは。と思っていると、ナナが自分の胸を鼓動と同じ速さで小さく打つ。
俺はそれを真似て――――、とん、とん、と、自分の鼓動を聞かせるように小さくナナの胸部を叩いた。
鼓動を聞きたいなら――――、いくらでも、抱き締めてやるのに。
「――――これの、何がいいんだ……ガキじゃあるめぇし……。」
「…………。」
気付けばナナはすやすやと、まるであどけない子供のような寝顔で寝息を立て始めた。
「――――寝たのかよ。ガキか………。」
しばらくナナの寝顔を見つめる。
「――――ナナ………。」
辛く厳しい数日間だっただろう。
仲間だと思っていた奴らの裏切り。
それにより――――お前が愛した仲間が何人死んだ?お前が飛び込むはずのエルヴィンの腕も失って――――命すら予断を許さない状態だ。
だがこれは序の口だ。
歯車は回り出した。
もっともっと軋んで、悲鳴のような、色んな奴らの断末魔を上げながら回り続けていくんだ。
それにお前はどこまで耐えられる?
――――俺は正直、この前線にもうお前を置きたくない。
お前にできることなど何もないと――――、どれだけお前が嫌だと泣こうとも、このほとぼりが冷めるまで――――どこかに隠してしまいたい。
もしこのままエルヴィンが目覚めなければ。
目覚めたとしても再起不能になったら。
どこか静かな場所で、エルヴィンの側で笑って生きていてくれたらいい。
――――敵と戦う最前線の俺の側で死ぬよりも、よっぽど。
「――――……なぁナナ、言っただろう。お前が笑ってられるなら―――――、俺はなんだってできると。」
すっかり眠って俺の手を握る指も解けたことを確認して――――部屋を離れる。
別室で、灯るランプの下で――――
俺はある人物に、手紙を書いた。